読書感想文:絆(江上 剛)

 私は読書が趣味ということになっていますので、読書感想文を書いてみることにしました。
 読む本は大体の場合、小説か新書で、ハードカバーは読みません。
 外で読むだけなので、ペースはそんなに早くないです。
 あと、選ぶ本が常に良い本というわけではないので、すごくしょうもない本などの感想も書いていくことになるかと思います。
 なお、著者等に敬称をつけたりはせず、また主観的な感想がほとんどになるため場合によってはかなり悪し様に作品を貶すようなこともあるかもしれませんが、あしからずご了承ください。


 さて、第一回は、江上剛の小説です。
 初っ端から何だかしまらない感じです。
 駅構内のちっさい本屋で平積みされていて、手に取りました。
 この人の作品は取り立てて面白いということもなく、どちらかというと稚拙で、二流の感じがプンプンするのですが、金融や経済が全く分からない私としては結構興味深いので、何作品か読んでいます。
 そんなわけで、辛口めのレビューになっていますので、江上剛が好きな人は続きを読まない方がいいかもしれません。

絆 (講談社文庫)

絆 (講談社文庫)


 今回の作品のあらすじはというと、

「康平、銀行には勝てんよ。金を返すまではね」。丹波から身一つで出てきた森沢康平は愛知で染色業を営む矢井田と出会い、かつて「ガチャ万」と言われた繊維業界で働くことになる。昭和から平成、日本経済が大きく動いたとき、同郷の幼なじみ、大手銀行に勤める治夫と再会し―。走り続けた男たちの物語。

 こんな感じです。


 プロットはいつも面白そうなんですよね、この人は。
 繊維業回に身を置く主人公、銀行に身を置く幼馴染、仲が良かったはずの二人はバブルに揉まれ、いつしか対立するように・・・的なのを想像するわけです。
 友情、環境による対立、そしてその先に待つカタルシスは和解か決着か。
 何と分かりやすく王道なプロット。
 しかし、実際の中身はとてもとてもそんな立派なものじゃなく、読めば読むほど主人公の思考に疑問を感じ、幼馴染(治夫)に嫌悪感を抱き、ご都合主義と矛盾だらけの展開に呆れてしまうという、悲惨なものになっています。


 この作品は(そしてたぶん江上剛の他の作品も)"小説仕立ての金融業界紹介"として読むのが正解でしょう。
 それにしちゃちょっと長いですけど。
 小説としては非常に出来が悪いのですが、バブルってどんな感じだったのかなーなんて思ってる人には良いかもしれません。


 ここから先は、ネタバレありで文句を垂れ流す感じの内容です。


 まずね、治夫(銀行員の幼馴染)がひどいんです。
 何このゴミくず。
 もう初っ端から終盤までゴミくず。
 中盤や最後の方でしおらしくなったりしていますが、そこに何の意味があったのか。
 準主役のはずなのに、全くもって共感できるところがありません。
 敵役としても全く魅力がなく、ただただ嫌悪を呼ぶだけの存在でした。
 こいつがいるだけでつまらなさが5倍増しくらいになってます。
 銀行員のリアリティとかそういう問題ではなく、小説の準主役として完全に役者不足だと感じました。


 主人公は主人公でひどいです。
 優柔不断で情に流されやすく、格別人間として魅力的というわけでもない。
 強い意思をもって決めた(ように見えた)ことをあっさり翻し、読者置いてきぼり状態で一人でうんうん悩んでいるという、どうしようもない主人公です。
 行動も思考も、全て作者が作りたい話のために捻じ曲げられてるという印象が強かったですね。


 ヒロイン(?)のさえこって女もひどかったです。
 色々ひどいですが、ひとまず自分をレイプしようとした男と最終的に結婚するってどういうことなんでしょう。
 私は男なのでよく分かりませんが、あんま普通の感覚じゃないような気がしました。
 っていうか大阪(?)から何も言わずに出てきた主人公が、岐阜の売春宿で元同級生と偶然の再会とかありえないですよね。
 運命の再開! と思わせるほどの筆力もないので、ポカーンとしながら読んでました。
 ご都合主義ってレベルじゃねーぞ


 というわけで、登場人物にまず魅力がないですね。


 他にも、銀行の話になるのでもしかしたら間違ってるのかもしれませんが、銀行が貸し剥がしのために融資打ち切りをちらつかせてきたとき*1、それまでお付き合いのあった信金に泣きつくことってできなかったんでしょうかね。
 っていうか最後には結局融資してもらってたんで、きっと普通に可能だったんですよね。
 結局その心労がもとで主人公の義父が死んじゃったりして、何だか急転直下的な流れになっていたわけですけど、何かよく分からないところで主人公が悩んでいたので「よく分からんなー」とか思いながら読んでました。
 信金にお願いできない理由があるなら読者に説明すべきだし、そんな理由がないのならそもそも物語として破綻してますよね。
 矢井田さんは何のために死んだんでしょう。
 こういう何だか見えない力による不思議な歪みが随所に見られるのが、どうにもこうにも読んでてしんどかったです。


 この人は、もうちょっと枝葉末節まで気を配って作品を書けばいいのになーと思いました。
 編集さんはもうちょっと仕事しろと言いたいのですが、きっと作者が権力者なので頭が上がらないのでしょう。
 金持ちの道楽に付き合わされる編集者が可哀想です。
 勝手な想像ですけど。

*1:一応、山場だったようです